ふるさと納税のレッドオーシャン化

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地方で生まれ、育った人が、進学や就職で都市部に流出する。その掛かった税金を還流する仕組みとして、「ふるさと納税」は生まれ、存在し続ける。だから、東京都の区が「流出はけしからん!」というのは筋違いな話である。

生まれ育ってふるさとへの納税は、Uターンできないけれど、地域に貢献したいという都市と地方の距離を縮める最も効果的な制度の1つ。誕生してから右肩上がりに納税額は増え続け、合わせて地域の特産品が「返礼品」として提供され、こちらも地域経済にとって欠かせない一つの「販路」としても確立しつつある。

出典:ふるさと納税の受入額及び受入件数の推移(全国計)[総務省]令和3年7月30日発表

1,模倣され、すぐに追いつかれる返礼品

2020年度は、コロナ禍において巣ごもり需要が高まったことから「ふるさと納税」の寄付をする人も増え、過去最高額となりました。富裕層が所得を伸ばす中、返礼品を目的に寄付自治体を選ばれる事が多く、高級品が求められたことから、国産和牛やカニなどに人気が集まりました。

例えば、2020年度に全国のふるさと納税額第2位に浮上した北海道紋別市。

2019年度納税額 7,737,694,959円

2020年度納税額 13,392,711,466円(昨対比173%)

ホタテやズワイガニなどが名産として返礼品が並んだことから注目を浴びましたが、2021年になると、他の自治体が人気の返礼品を模倣し、ズワイガニはレッドオーシャン化へ。大阪の自治体が何故かロシア産のズワイガニを扱うなど、上位ランキングに入った自治体の手法や返礼品はすぐに真似され、追いつかれ、平準化していくというパターンに陥る傾向があります。

北見市ふるさと納税最多ペース 冷凍ホタテ追い風 10月末で3億円突破

 北見市のふるさと納税の本年度の寄付総額が、10月末までに3億円を突破した。昨年度から取り扱いを始めた常呂漁協の冷凍ホタテ貝柱が追い風となり、過去最多ペースとなっている。ふるさと納税の申し込みが本格化する年末に向け、市はさらに寄付金が上積みされると期待している。

北海道新聞 2021年11月18日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/613151

無論、納税額第1位は、宮崎県都城市で135億円です。霜降り国産和牛の宮崎牛や、全国的に知名度の高い「黒霧島」(芋焼酎)があることが、普遍的な強さとなっています。

2,「税収増×特産品開発・育成」という地方創生の在り方

地域の特産品が増えることは、観光がいまだ地方の主力産業であり、交流人口を増やしていくきっかけとなるため、地域経済を活性化させるのに不可欠です。担い手や後継者問題もありますが、既存商品の魅力をUPさせたり、新商品の開発や、移住・定住者が新たな事業として飲食や加工業を始めることは、地域の賑わいと魅力を向上させることにつながります。

そうした時、いきなり店舗を構えたり、大手ECポータルへの出店は、投資負担やネット社会における戦略など、ハードルが高く、多くの壁に直面することが多々あります。その点、ふるさと納税であれば、既存ECサイトのようなタイトなスケジュールでの製造・受発注処理・発送が求められることなく、ある程度猶予を経て返礼品としてお送りできることから「ECサイトデビューの前哨戦」として位置づけるにはちょうどいい「販路」となります。

地方創生を進めていくにあたり、この「返礼品開発」を軸に、地域の商品としての選択肢を増やし、地域経済圏を活性化させていくことで、長期的で持続可能な体制づくりを地域に根付かせたい。そう考えるのであれば、こうした地方創生のコアとなる経済循環システムを自治体が民間企業と手を組んで、ともに作っていくことが、地域の景況感を向上させ、税収増へと向かって行く最短距離と言えるでしょう。

3,「デザイン」より「ファイナンス」こそ先

地方創生のとっかかりとして、きれいなウェブサイト、おしゃれなパッケージ、企業ロゴから手を加えるパターンが多々見受けられます。でも、ちょっとまってください。見かけがきれいになっても、本質的な価値や、ビジネスモデル、収益計画がしっかり出来上がっていなければ、早晩見透かされ、かけた費用を回収することもできなくなります。

まず真っ先にやるのは「事業構造」を「黒字化」させること。無駄、ムラをなくし、ニーズにあった商品を開発し、製造すること。そこにあるから商品化してみた、では売れない時代なのです。消費者は常に賢く、正しい。そう改めて肝に銘じて、企業として、商品として、真摯な姿を魅せなければ、選択される商品や企業や自治体になれません。

経営相談、専門部署が即応 大分銀行「タブレット」活用

大分銀行は顧客企業からの経営相談に即時に対応する取り組みを始めた。営業店の行員が企業を訪問した際に人材紹介などの相談を受けると、本部の専門部署へ連絡。行員が携帯するタブレットを使い、その場で顧客と本部の担当者がオンラインで面談する。従来は一度店へ持ち帰り、初回面談までに数日から1週間程度かかっていた。顧客の課題にタイミングを逃さず対応し、取引強化につなげる。

日本経済新聞 2021年11月4日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC202QA0Q1A021C2000000/

では、地域において、ファイナンスができるのは誰か。それは地域に密着した「地方銀行」にほかなりません。地場の経済を金融という側面から見ている以上、融資も投資も、地銀を外してできることはありません。もちろん、時代のトレンドや新しい技術に行員がキャッチアップできているかといえば、必ずしもそうでないこともあります。だからこそ、専門性を持った人材や企業と組み、循環であり仲介の役割を果たすのが金融機関なわけです。

かけた費用を売上に替える。投資した資金を回収する。基本的なビジネスの根幹に、今一度金融機関が果たす役割は大きいと想うのです。

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